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Ryu-sen
三澤亮介
この度、CONTRASTは美術家・三澤亮介の個展「Ryu-sen」を9/20(土)から9/28(日)まで開催いたします。 本展は、写真家としての経験を礎に「光」という不可視の存在を主題化し、絵画的言語によって再構築する試みです。光を単なる物理現象としてではなく、時間や空間、記憶、身体感覚を媒介しながら、万物の根源に共鳴する普遍的なテーマとして追究しています。 画面に連続するグラデーションは、筆致や色彩が幾層にも重なり合い、人間の営為や思考、感情の流動を象徴します。それは、絶えず変化する〈流線〉のように鑑賞者の身体を通じて世界と呼応し続けます。一方、直線的な構成はその流れを切断しながらも、画面に秩序としての痕跡を刻み込みます。流動と静止、偶然と必然、混沌と構造といった相反する要素を並置することで、宇宙や社会がいかにその存在を編み上げるのかを可視化しようとしています。 また、タイトル「Ryu-sen」が示すように、作品のみならず展示空間全体の動線設計にも着目しました。光は一方向に流れるのではなく、折れ返し、交差し、反射しながら多層的に展開します。その眼差しの痕跡は、幼少期の庭先に差し込む斜光や都市の夕暮れの陰り、アトリエで淡く甦る記憶など、個人的な体験を通じて統合され、鑑賞者との対話を生み出します。 光を「美の原点」として据えることで、作品は単なる視覚的快感を超え、鑑賞者それぞれの内的世界を刺激し、共鳴の場を開きます。そこに浮かび上がるのは、アバンギャルド的文脈における〈救済〉という芸術の根源的な命題です。未だ見ぬ世界を予感させ、傷ついた魂を照らし出すこと──本展が志向するのは、その小さな〈聖域〉を呼び起こすことにあります。 「Ryu-sen」を通じて、光という目に見えないエネルギーが織りなす普遍性と美しさ、秩序と混沌が交錯する美の様式を提示します。静かに共振するひとときをぜひご体感ください。 ー 展覧会に寄せて 鈴木萌夏 三澤亮介の制作を貫く主題は、光の再定位である。彼にとって光は、ただの物理現象ではない。記録であり、記号であり、解釈をめぐる揺らぎとして立ち上がる。それは目に映る歓びを超えて、時間の流れをそっと可視化し、記憶の層を呼び覚ます媒介となる。プリズムによる分光にも似た果てしなく移ろうグラデーションは、連続と断絶を織り込む時間の痕跡そのものだ。 三澤が光に託すのは「普遍」への探究である。光は遍在し、誰もが触れることができる。ゆえに光を描き出すことは、普遍へと手を伸ばす行為にほかならない。その行為は、美の再現にとどまらず、救済のかたちを帯びている。幼い頃に親戚の家でひとり、カーテン越しに揺らめく光を見つめた記憶=孤独と美が静かに重なり合うあの原体験が、本展で展示されている作品たちの奥底に息づいている。孤独を避けることはできないけれど、美はその孤独に寄り添うように訪れる。三澤の光は、この二重の契機を抱きしめているのだ。 やがてその記憶は、光を生命の比喩へと開かれる。生命は光の集合であり、その集合は人と人の関わりへと姿を変える。グラデーションはつながりを、セパレーションは断絶を示し、その往還は他者との関わりを映し出すのだ。光の諸相は個を超え、社会に潜む秩序と混沌を媒介する象徴的な構図を生み出す。言い換えれば、光は人の存在を照らすと同時に、孤独と共生の姿を同時に可視化するのである。 本展「Ryu-sen」は、その思索を空間に解き放つ三部構成で展開される。一階では、F150号の大画面に描かれた《Zigen》が壁を覆い、頭上には布にインクを沁み込ませた《Zigen [+Beyond]》が漂う。定着と漂流、重力と浮遊といった二つの存在は呼応し合い、空間を「光の運動体」へと変貌させる。二階では大小の《Zigen》が反復と差異のリズムを奏でている。地下階では、映像、写真、詩が並置され、光の問題系がさらに多層化される。映像作品では、三澤が光の記憶や認知、感情の表出について思索を展開する様子が映し出される。光が抽象化を経てもその本質を保つのか、見るという行為が何を選び、何を捨てる営みであるのか、不可視の感情がどのように画面に滲むのか──映像はこうした問いを立体的に提示し、観客に思索の余地を与える。 写真作品は、商業写真家としての活動経験を背景に、日常の風景から光を切り取り、その存在感を顕在化させる。絵画とは異なる眼差しで光を捉えることにより、普遍的な経験への回路を示すと同時に、日常に潜む美や時間の流れを気づかせてくれる。 詩篇は、物理的な光の眩しさや揺らぎを出発点として、孤独や時間、存在の営みといった人間的次元へと拡張される。言葉は光を単なる自然現象としてではなく、経験として描き出し、映像や写真と響きあいながら空間に詩的なリズムを与える。地下階全体は、光の物理的現象と人間の感覚や営みを結びつける場として、展示空間に深みと多層性をもたらしている。 三澤が描き出すのは、光を媒介とした「普遍」への回路である。その普遍は抽象理念ではなく、個々の経験に根ざしながら他者と共有される次元を指す。孤独の記憶が光の像として結晶し、展示空間でふたたび立ち上がるとき、わたしたちはそこに自らの経験を重ね合わせるだろう。救済の光景は、作家ひとりのものではない。わたしたちの眼差しによって、何度でも新たに生まれ変わるのである。 三澤亮介の試みは、光を通じて世界との関係、そして他者との関係を問いかける。光は秩序と混沌のはざまに揺らぎ、孤独と美を同時に宿す。その不可視のエネルギーを可視化することで、作品は普遍的な経験を呼び覚ます。すなわち「Ryu-sen」は、光という記号を通じて、わたしたちがいかに世界に参与し、他者と出会うかという根源的な問いを、静かに、しかし確かに投げかけている。 ー オープニングパーティー:9/19(金) 18:00 - 21:00 会期:9/20(土) - 9/28(日) 水 - 金:14:00 - 19:00 土・日・祝:12:00 - 19:00 休館日:月 入場料:無料 会場:CONTRAST


